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■「LUIRE(ルイール)」
■NO.3 / 2000 Spring & Summer
■Rittor Music Mook/GROOVE presents
■定価600円+税

■宇多田ヒカル
HOT STUFF17 HIKARU UTADA (p.74〜77)
■クラブ・シーンから見た宇多田ヒカルのディスクレビュー
■文=柳川剛志 (Cisco International)
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■「Automatic / time will tell」
(TOSHIBA-EMI LIMITED )

実は恥ずかしながら、デビュー前に「time will tell」を一聴した段階ではその才能
を細部まで感じ取ることが出来なかったんですよ。今や激レア化されているプロモ盤
を聴かせてもらう機会があったんですね。それに、安直すぎるリミックスが入ってい
て音しか聴いてなかった。しかも、これがうそ臭く聴こえてしまったんです。自分自
身も若かったというか、島国根性的な世界観を持っていた時期で「こんなリミックス
でR&Bとか名乗って、俺たちの土壌に足を突っ込んでくんなっ!」ってね。しかし、実
際にオフィシャルでリリースされたものに、そのバージョンが入っていなかったし、
もちろん、ゴウ・ホトダ氏の手によるバージョンは秀逸なモノだし、オリジナルもし
かり。ここで改めて蒸し返す話ではないので、このくらいにしておきますが、彼女の
作品に触れた最初の感想はこんな感じだったです。その僅か数ヵ月後の「な/なかい
めのベ」では簡単に心を持っていかれたんですけどね(笑)。
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■「Movin' on without you」
(TOSHIBA-EMI LIMITED)

単純に「歌がうまい」という陳腐な表現を覆すモノが、この曲のフックにあります
よ。歌唱法においてのラップに見られるようなフロウがここにはあるし、歌にも技が
あることを一般に届くレベルで証明してくれました。これは確実に“スキル”と言え
ましょう。しかも、この部分は韻も高いレベルで踏まれているんですよ。語尾だけの
単調なものではなくね。ビブラートとかフェイクの何某はおいといて、当時、ワイド
ショーでまで“曲解剖”されていたような独特の音節のブチ切り感しかり、レイヤー
によって見事に表現された感情の強弱しかりが今までのシーンでも模索している最中
にあった日本人としての黒さを感じられる瞬間だったのではないでしょうか?
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■「First Love」
(TOSHIBA-EMI LIMITED)

この曲でスゴイなと単純に思ったところは英詞部分の使い方ですね。バイリンの妙と
いうべきか、英語を話せない人間が作れる文節ではないなと思うわけですよ(笑)。当
然ですが、生きた英語ってこと。すごくリアル。日本詞の部分より「グッ」と来るも
んなぁ。歌謡界で出てくる安っぽいワードと学校で教わるような構文じゃないんです
よね。それでいて、歌謡界を制する条件の「分かりやすい」という矛盾の共存ができ
てる。完璧。もちろん、意識してのことではないのでしょうが、それが天性の才能っ
てことでしょうか。それに加えて、大人達をも唸らせた魅力的なメロディー感覚も持
ち合わせている。これに何週間「自分の中チャート」を制せられたか。
多分6週間くらいは1位だったですよ(笑)。
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■「Addicted To You」
(TOSHIBA-EMI LIMITED)

現行の国内の作品においてR&Bと位置付けられる楽曲の中では最高のクオリティを持
つ作品でしょう。“J-R&B(爆)”の遥かに上を行く“R&B”だと思いますね。実際にク
ラブでもこれだけ自然に洋楽と肩を並べてプレイ出来る曲が一体どれだけあるのか?
ということなんですよ。いわゆるシンコペイテッド・ビート風なUP-IN-HEAVEN MIXを
逆転させて押しバージョンに差し替えたというのも有名な逸話ですが、結果としては
成功だった。もちろん、UNDERWATER MIXもイケてるんですが、こちらでは求めていた
ジャム&ルイス感が出すぎてしまってるんですよね。そこを裏切りつつ、旬であった
「The Boy Is Mine」以降のTriton(機材の名称)使いの流れるような音階付き上ネ
タをもってして、国内チャートを制してるんですから。これにはクラブ・ミュージックに携わる
人間は感服の一言ですわな。
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■「Wait & See 〜リスク〜」
(TOSHIBA-EMI LIMITED)

出ましたねぇ!!待望の新作ですよ!!今回も“良い意味”で裏切られましたわ。思い通
りの線ついて来ないな。すごいポップスじゃない?このすごいは“すごい”ってこと
ですよ。本気かい?と思わせる後半転調部の「キーが高すぎるなら〜」以降の一歩間
違えたらお寒いリリックも超本気。それどころかパンチ・ライン(笑)。しかも、この
転調のアイデアはジャム&ルイスから出されたモノだとか。これも意外ですよね。
パッと聴きの印象ではめまぐるしい展開がうるさく聞こえちゃったんですけど、
HipHop/R&B的な単調なループから生まれるグルーヴ感ばかりを求めてしまっているか
らなんでしょう。っと、これでは聞き手として成長ゼロだ。もう、本音はジャンルな
んてどうだっていいんです。どうも、物書きモードだと堅くなってイカン。締めの笑
い声が全てを物語ってますよ。楽しんで作ってるって。だから、聴いてる方も楽しいッスよ!!!!
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■「First Love」
(TOSHIBA-EMI LIMITED)

実直な話、この「日本史上最高の作品」もまだまだ完成されているものとは思わない
んですよ。しかし、この“愚問”もあえて文頭に書かせてもらったのには理由があり
ます。彼女は現在進行形のアーティストであり、常に進化をとげているのです。新作
を以って最高傑作とするべきでありましょう。それが、マキシにおいての「Addicted
To You」であり、「Wait & See 〜リスク〜」なのであって、この原稿を書いている
時点ではすでに過去のモノであるからです。この表現は文章家としても尊敬する佐々
木士郎氏からの引用ですが、“進化”を感じさせてくれるアーティストにこそ、現代
のヒップホップ(R&B)精神を垣間見ることが出来るのです。もちろん、乱暴にヒップ
ホップ文化を持ち出すつもりも毛頭ないのですが。近い空気はあるわけですよ。そし
て、なにより、これだけ底辺の広い(歌謡)ロック層を持つ日本のメジャーな音楽業界
に本誌読者が好んで聴かれているようなR&Bに最も近く位置付けられた作品が「日本
史上最高の作品」となったわけですから、これを快挙と賛辞せずにはいられませんよね。
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■Cubic U
「Precious」
(TOSHIBA-EMI LIMITED )

前述したように、これはさらに過去の作品となるわけで、筆者自身も「宇多田ヒカ
ル」出現以降に知った作品。ただ、「First Love」とは違った感覚で耳にすることが
出来るのは“可能性”として振り返れるモノではあること。プロデュース・ワークと
しては、やはり“今”のレベルと比べてしまえば、質は歴然であるし、96年〜97年に
制作されたことを考慮してもそれ自体が埋もれていたのは仕方がないでしょう。洋楽
として聴くならですよ。でも、cubic Uが目指す方向としての基盤がここ作られたの
は間違いないでしょうし、その時期に高いレベルを志し、アルバムを完成させた意気
込みはビシビシ伝わってきます。ここでのステップが無ければ、「First Love」はあ
りえないのですから。本来とは逆転の発想で消化しながら聴かなければならなかった
アルバムなわけですが、「宇多田ヒカル」を「Cubic U aka utada hikaru」としての
将来像もそこに見たいのが真理なんですよ。
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著者紹介


■柳川剛志〜レコード・ショップ シスコ渋谷本店勤務、HIP HOP/R&B
チーフ・バイヤー兼、販売促進統括部。J-WAVE朝日新聞「HIP HOP JOURNEY DA
CYPHER」.(J-WAVE/FM81.3Mhz/毎週土曜日/25:30〜28:00)で新譜を紹介する「THIS
WEEK'S PICK」コーナー担当(※隔週)HARLEM「HONEY DIP」(渋谷CLUB HARLEM/毎週
火曜日)DJ HASEBE、DJ WATARAIの前座(笑)担当。

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Special Thanks to...
奥澤健太郎 (browny)
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